ビジネスマインド教育

プロフィール

藤森 将昭

株式会社MYビジネスパートナーズ 代表取締役

アスリートのセカンドキャリアには「ビジネスマインド」が不可欠。それを身につけ、就職・起業するためのサポートをする。
http://mybusinesspartners.jimdo.com

株式会社MYビジネスパートナーズ 代表取締役 藤森 将昭

【取材】ビジネスで活かせることは、スポーツから学んでいる


アスリートにとって、セカンドキャリアは大きな関心のひとつだ。
トップアスリートであっても、ほとんどの選手がいつしか競技生活を終え、ビジネスの世界へ飛び込んでいく。
そして、そのことに不安を感じているアスリートが多いのが現状だろう。
だが、アスリートはスポーツでいろいろなことを学んでいるはずだ。
「スポーツで学んだことは、ビジネスでも活かせる」という㈱MYビジネスパートナーズの藤森将昭さんにお話をうかがった。

<取材・構成=スポーツライター 佐伯 要>


㈱MYビジネスパートナーズ
代表取締役 
MBA(経営管理修士)
藤森 将昭

ビジネスでの基本的な能力は、スポーツで身についている

アスリートにとって、セカンドキャリアは避けて通れない問題です。
競技を続けながら仕事をするにしても、競技生活そのものを終えて仕事に就くにしても、スポーツの世界からビジネスの世界へ飛び立たたなければならない日がやってきます。
そのとき、たとえばその競技の指導者など、競技に関わる仕事に就ける人はごく一部でしょう。
ほとんどの人がまったく別の世界を経験しなければなりません。不安に思うのも当然でしょう。多くの人が「僕は野球しか知らないから」「僕は今までサッカー以外のことは考えたことがない」と、その不安を口にします。

ところが、実はそうではないということを知ってほしいのです。
アスリートのみなさんは競技生活の中で、ビジネス界において前提として必要とされるいくつかの能力を自然と身につけている、と私は考えています。
その能力とは、「仮説思考」、「自己否定能力」、「意思統一力」、そして「コミュニケーション能力」です。これから具体的に説明していきましょう。

①仮説思考

今、ビジネスで重要なのが「仮説思考」です。
これは「TRY&ERROR」、つまり最初に「これがうまくいくのではないか」と仮説を立て、それを実際にやってみる。そして間違っていたらすぐさま修正する、ということです。
これまでは経済全体が上向きだったため、すべての策を網羅するほどじっくり考えてからその一つを選択して着手し、2年ぐらいかけて失敗だったら修正しよう、というようなことができていました。
でも、今は世の中の変化も激しく、そのスピードも早い。たった数年前の携帯電話でも古くなってしまっていて、「そういえば、こんなの使ってたよね」というほどです。
そのため、成功か失敗かの見極めを早くして、成功する分野においてピンポイントで勝負をかけなければ、ビジネスがうまくいかなくなっています。
ですから、この仮説思考が重要になっているのです。
この能力をスポーツに置き換えると、例えば野球なら「このフォームで打てばうまく打てるかな?」と考えて、実際に試合や練習で試してみる。そしてうまくいかなかったら、またフォームを修正する……というようなことです。
アスリートのみなさんが、日頃から結果を出すために取り組んでいること。それはまさにこの「仮説思考」に基づいているのです。
  
 
  

 
 
②自己否定能力
例えば営業の仕事で、これまで成功してきたやり方では業績が上がらなくなることがあります。このときに必要なのが、自分の成功パターンを崩すこと、つまり自己否定能力です。
カベにぶつかったとき、今までの自分のやり方ではダメだと気づく。そして、創意工夫して方法を変え、成功する。この自己否定ができる人は、優れた営業マンだと言えます。自己否定はそれほど難しいことなのです。

この自己否定能力が必要とされる場面は、ビジネスの世界よりもスポーツの世界の方が多いのではないでしょうか。
ビジネスの世界では半年もしくは3ヶ月ごとの業績などで判断しますが、スポーツではもっと短いスパンで結果を突きつけられ、判断を迫られます。スポーツの世界では勝敗や打率、ゴール数、タイムといった数字で表される結果がすぐに出るため、それにあわせて自己否定しなければなりません。
例えば野球では、10打席連続ノーヒットなら、次の5打席で連続してヒットを打たなければ3割をキープできない。でも11打席目もヒットが打てなければ、12打席目では交代させられてしまうかもしれません。ですが企業では、それほど短い期間で交代させられることはあまり考えられません。

結果が出ないバッターがフォームを変える。球威が衰えたピッチャーがオーバースローからサイドスローに変える。タイムが伸び悩んでいる水泳選手がストローク数を変える……。
こういったアスリートの自己否定能力は、ビジネスの世界で非常に役立ちます。
この点については、むしろビジネスパーソンが日々それを繰り返しているアスリートに学ぶことが多いと言えるでしょう。

③意思統一力

ビジネスでは、組織で意思を統一することが重要です。みんなが好き勝手に動いては仕事になりません。「このターゲットに絞って営業しよう」「この商品を売り出そう」など、リーダーが方針を伝え、組織の意思統一を図らなければなりません。
また、ある方針がうまくいかなくなった場合はすぐに変更しなければなりません。そして新しい方針を素早く正確に伝えることも重要です。

アスリートのみなさんは、短時間でチームの意思統一を図ることに長けていると言えます。
野球なら攻撃の際にベンチ前で円陣を組んでいる間に、その回の攻撃について監督やコーチから短い指示があるでしょう。守備ではピンチのときにマウンドに集まって、チームとしての決め事を確認するでしょう。またサッカーなら「前半の内容をふまえて後半はこうしよう」とハーフタイムに監督が修正を加えるでしょう。
このように、アスリートのみなさんは日頃の試合の中で短時間の意思統一を繰り返しており、チームの方針やその修正内容を素早く、正確に把握することができているのです。

④コミュニケーション能力

現代社会は変化が激しく、ニーズもどんどん変わっています。
ですが、ビジネスで成功するためには世の中のニーズやその変化を把握することが不可欠です。
そこで必要なのが、コミュニケーション能力です。
コミュニケーション能力には、「聞く力」「質問する力」が必要です。
まず相手の話をよく聞いて、そのうえで疑問に感じたことについてどんどん質問し、内容を明確にしてはじめて、ニーズが把握できるのです。

アスリートのみなさんは、監督やコーチに話を聞いてもらい、いろいろ質問をされたうえで的確なアドバイスをもらった経験があるはずです。
例えば、結果が出ていない野球選手の場合を考えて見ましょう。

コーチ「どうした? 最近お前らしくないな」
選手「外角の変化球が打てないんです」
コーチ「なぜ、外角の変化球が打てないんだ?」
選手「変化球にタイミングが取れず、体が泳いでしまうんです」
コーチ「どうしてそういう状態になるのか、わかる?」
選手「そうですね、上半身が回転を始めるのが早すぎるからです。左足がステップしたとき、すでに上半身が回りはじめているんですね」
コーチ「それを防ぐには、どうしたらいい?」
選手「上半身の回転を我慢しなければなりません」
コーチ「そうだね。そのためには、右足首の回転を我慢するといいよ。そのことを意識してバッティング練習してみよう」
……こうしたコーチとの会話を思い出せば、相手とのコミュニケーションがうまく取れるはずです。

   
コミュニケーションにおいては、アスリートが注意すべきことがあります。
それは、結果を出し続けてきたトップアスリートほど自分の視点で話をしてしまうという点です。
「名選手は必ずしも名コーチにあらず」といいますが、名選手ほど「オレはこの方法で成功してきた。
だからこうやれ」というように自分基準でコミュニケーションをとってしまうことが多いものです。
また自分がずっと結果を出してきたので、結果を出せない人の気持ちがわからなかったり、なぜ結果をだせないのかがわからなかったりします。さらに、できない理由がわからないので、どうすればできるようになるかもわからない。そうすると、話を聞いてもわからないから、相手の話をさえぎって自分の話を始めてしまう……という悪循環になってしまいます。
これを防ぐためにも、「自分が失敗したとき、監督やコーチが辛抱強く待ってくれたから自分がここまで成長できた」ということを忘れないでください。
自分を基準にせず、常に相手のことを思って、まず話を聞く。この姿勢が大切です。

好きこそものの上手なれ

競技レベルを向上させるためには、いろいろな努力をしたり、困難なことに耐えたりしなければなりません。(アスリートのみなさんには、この「忍耐力」も身についているはずです)
それができるのは、その競技が「好き」という強い気持ちがあるからでしょう。
「好きこそものの上手なれ」といいますが、それはビジネスでも同じです。
これまで述べてきたように、ビジネスで必要な能力のいくつかはスポーツで身についているのですから、今度は自分が興味を持てる仕事でその能力を発揮すればよいのです。

アスリートのみなさんは「自分のやってきたスポーツにしか興味が持てない」と思い込んでいる人が多いようです。そのカベは、乗り越えなければならないでしょう。
最初はその競技に関わる仕事に就くことを考えると思いますが、その椅子は限られた数しかありません。まったく違う世界へ飛び出していかなければならないという覚悟が必要なのです。
「野球しか好きではない」「自分にはサッカーしかない」などと思わずに、視野を広げていろいろな選択肢を持ち、「これだったら好きになれる」ということを見つけてください。
その競技に関わる仕事以外に自分の興味のある仕事を見つけることができれば、あとは自分の能力を活かすだけです。

それを見つけるためには、ます自分の生活を振り返ってみてください。
誰かに何かをしてもらって、うれしかったことはありませんか?
また、それをしているときに充実感を得られることは何でしょうか?
そうして興味が持てる仕事が見つかったら、次はその仕事をしている人に話を聞いてみましょう。
その仕事について深く知れば知るほど、さらに興味を持てるはずです。
いろいろな選択肢を探すには視野を広げる必要があります。そのためにはその競技をやっている人たち、同じ世界の人たちとばかり固まっていてはいけません。
普段からアスリート以外の人、違う世界の人と接することで、いろいろなことを吸収できるようになります。きっとそこで、自分の好きなことが見つかるでしょう。

ビジネス界で必要とされる能力とは

ビジネスで前提として必要な能力はスポーツで身につけた。そして自分が興味を持てることが見つかり、ビジネスの世界へ飛びこんでいく。
そのとき、大きく分けて2つの方法があります。
一つは、会社に社員として入社して仕事をする、つまり「就職する」という方法です。
もう一つは、自分で会社を作ってその仕事をする、つまり「起業する」という方法です。
「仮説思考」、「自己否定能力」、「意思統一力」、「コミュニケーション能力」があることはビジネス界の前提です。そして就職する場合、起業する場合のそれぞれで、さらに求められる能力があります。

①就職する場合

企業が社員に求める能力は、もちろんその企業によって異なります。
ここでは、一般的に必要とされる能力について説明します。

○ 自ら能動的に動くこと
まず必要なのが、「自ら能動的に動くこと」です。
一昔前の高度成長期に求められていたのは、上意下達の命令どおりに一生懸命働ける人材でした。その頃は会社の方針も明確だったため、その方針通りに動けば、あとは体力勝負。動けば動くほど利益につながったのです。
ですが、今はそうではありません。前述のように変化が激しいため、企業のトップにも「正解」がわからない時代です。
ですから今は、より「正解」に近い位置にいる社員、つまり最前線の現場で働いている人が指示待ちではなく自ら積極的に動き、提案することが求められているのです。

○ 問題発見力と課題解決力
さらに「問題発見力」「課題解決力」が求められています。
つまり自ら能動的に動き、何が問題なのかを発見し、それを解決する方法を考えることが必要とされているということです。
先ほどのコーチと選手の会話に例えると、外角の変化球を打てないという現象は「問題」ではありません。本当の問題は、その先の「上半身が早く回転を始めてしまう」ことです。それさえわかれば、「上半身が早く回転を始めないように、右足首を回転させるのを我慢する」という解決が導けます。
「聞く力」と「質問する力」を駆使して、問題を発見すること。
そしてその課題を解決する方法を見つけること。
この2つの力がビジネスでも必要です。

スポーツで結果を出す方法を考えたり、相手チームに勝つための作戦を考えたりするのは、ビジネスの世界で競合他社に勝つための戦略を考えることと同じです。
例えば戦力に劣る弱小チームが有力選手を集めた強豪チームに勝つ方法を考えることは、莫大な広告宣伝費を使える大企業に対して中小企業がどう立ち向かうかを考えるのと似ています。
劣っている戦力で、競合他社に勝つこともビジネスでは大事なことです。
アスリートのみなさんは、日頃からこういうことを考える習慣がついていると言えるでしょう。

②起業する場合

起業する場合は、もう少し専門的な能力が必要となります。
1つずつ説明していきましょう。

○ コンセプト
コンセプトとは、簡単に言うと「誰に、何を提供して、いくらお金をもらうのか」ということです。
これが不明確では、起業してもうまくいきません。
例えば、焼肉店の場合を考えてみましょう。
ただ「焼肉店を開きたい」というのと「ファミリー向けに、手ごろな価格で、子供も喜んでもらえるメニューも提供できる焼肉店を開きたい」のでは、具体的に考えなければならない戦略が変わってきます。
今の時代は、「誰にでも」という全方位型のコンセプトではなく、「こういう人に」という絞り込みが必要です。
誰に喜んでもらいたいのか? また、何をして喜んでもらいたいのか?
このコンセプトが明確になってはじめて、どういうお店になり、スタッフに何を伝えなければならないのかが決まります。

○ 組織のマネジメント
起業してスタッフを雇うような場合は、組織のマネジメントが必要です。
「自分がやった方が早いから」と人に任せずに自分で何でもやってしまう人がいますが、これではいつまでたってもスタッフが育ちません。その結果、いつまでも自分で頑張り続けなければならなくなるという悪循環に陥ります。スタッフを信頼して任せることも大切でしょう。
また、組織ではリーダーとして方針を明確に打ち出し、それを正確に伝えることも必要です。(ここではコミュニケーション能力が活かせます)
さらに、スタッフのやる気を引き出すことも大切な役割でしょう。
組織をマネジメントし、その力を最大に発揮することが成功の条件の1つです。

○ お金のマネジメント
企業には「出ていくお金(支出)」と「入ってくるお金(収入)」があります。
経営では、この2つのサイクルをきちんと回さなければなりません。
「入ってくるお金>出ていくお金」になることはもちろんですが、黒字の状態でも「入ってくるお金」よりも「出ていくお金」のタイミングが早くなるだけで資金繰りが困難になり、いわゆる「黒字倒産」になってしまいます。

このように「組織のマネジメント」と「お金のマネジメント」ができ、そのうえで何をやるかという「コンセプト」があってはじめて、企業経営は成り立ちます。
コンセプトはともかく、組織とお金のマネジメントについては学ばなければなりません。
前述したように「好きこそものの上手なれ」ですから、「食べることに関心があり、焼肉が好きだから焼肉店をやりたい」という思いは大切です。
しかしその思いだけでいきなり独立・開業すると、リスクは高いと思います。
弟子入りしたり、研修を受けたり、講座で学んだりといった準備をして、経験やノウハウを身につけたほうがよいでしょう。
   

自分一人ではできない

「仮説思考」、「自己否定能力」、「意思統一力」、「コミュニケーション能力」などのビジネスで必要な基本的な能力をスポーツで身につけた。そして、「好きこそものの上手なれ」といえる仕事を見つけた。
たとえそうだとしても、就職するにも起業するにも、全部一人でできる人はいません。
スポーツで培った能力をビジネスで活かすためには、全部一人でやろうとしないことです。
アスリートとして現役だった時代も、まわりの選手や監督、コーチからアドバイスをもらい、それを取り入れたからこそ成長してきたはず。
それはビジネスでも同じです。
遠慮せずに、わかる人や経験のある人にアドバイスを求めましょう。
もちろん私も、そのうちの一人です。ビジネスの世界で活躍しようとするアスリートのみなさんにとって、少しでもお役に立てれば幸いです。
   

*㈱MYビジネスパートナーズのホームページは、こちら
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「セカンドキャリアのワンポイントアドバイス」
藤森将昭(株式会社MYビジネスパートナーズ 代表取締役)×佐伯要(スポーツラ
イター)

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