考える力こそ最強の武器 /工藤公康
プロフィール

工藤 公康
投手
1963年05月05日 生まれ。愛知県出身。名古屋電気高 第63回全国高等学校野球選手権大会出場。2回戦の長崎西高校戦でノーヒットノーランを記録。ベスト4進出 。西武ライオンズ(1981年ドラフト6位~1994年)福岡ダイエーホークス(1995年~1999年)読売 (2000年~2006年)横浜 (2007年~ )
獲得したタイトルMVP 2 回 ( 1993年 、 1999年 ) 正力松太郎賞 1 回 ( 1987年 )最優秀防御率 4 回 ( 1985 年、 1987年 、 1993年 、 1999年 )最高勝率賞 3 回 ( 1987年 、 1991年 、 1993年 ) 最多奪三振 2 回 ( 1996年 、 1999年 )最優秀投手 1 回 ( 2000 年) ベストナイン 3 回 ( 1987年 、 1993年 、 2000年 ) ゴールデングラブ賞 3 回 ( 1994年 、 1995年 、 1999年 )
野球を始めた時から考えてプレーしていた
- 著書の中で「考える力」について語られていますが、工藤 さんにとって考えるということはどういうことなのですか?
工藤選手: 「考える」とは、たとえば野球を始めて外野手や内野手やピッチャーをどれかやる上で、「どうやったらボールを遠くに投げられるか?」などを考える事です。
僕は野球が嫌いだったので、より少ない時間で上手くなりたかった。覚えた時間の残りは遊びに使おうと思っていました。だから、いかに楽にボールを遠くに投げられるかということを考えていましたね。。
小学生、中学生は(遠くに投げられる)力がないですから、どうしたら上手く体を使って投げられるか。プロの選手の投げ方やその解説を見て、 プロの選手は体をこう使っていると知って、自分で試してみる。そこで、感覚的に自分に合うかどうかを考えていました。
例えば「この人は背筋が強いからこういう投げ方ができる」とか、「あの人は下半身が強いからできる」とか、「あの人は上半身の力があるから あんな投げ方ができる」とか、そういった解説を見ながら、今、自分の背筋は強くはないけれど、その人が元から背筋が強くてそういう投げ方を身につけたわけ ではなく、そういう投げ方をしているから背筋がついたのだから、こういう投げ方をすればどの筋肉が強くなる、という漠然とした考えの中で、「自分だったら どうするか」を考えていましたね。
そして、シャドーピッチングをしながら、どこが似ているのだろう、似せるにはどういう使いかたをすればいいんだろう、自分に合うのだろう、 を考えました。
- ということは、少年時代は仮説をたてながら、実行していったわけですね。
工藤選手: そうですね。
- 解説者の解説と違うことを発見した事もあるのでは?
工藤選手: はい、解説者が考えていることに対して違いを感じた時は、自分の感覚に従う時もありました。今なら、当然自分がやっていて力の流れというものがあるし、それをどうやって最終的に集約していくかが、わかるのですが、その時は何となく考えていま したね。つまり、力で投げるのではなく、力を使わずに楽に投げる、嫌いな野球だけに楽にいい球を投げたい。楽に速い球が投げたい。そういうところから、力 の使い方を考えました。
- 野球嫌いの副産物ですね。「考える」ということが習慣としてあったのですね。
工藤選手: 習慣としてあったわけではなく、そうすることが良いと思っていました。僕は小学生の時は人 に教わるということが嫌いでした。やんちゃ坊主だったということもあったし、負けず嫌いでした。自分で何とかしてやろうという気持ちがありましたね。
- もともと、自分で考え行動するという部分があった。
工藤選手: そうですね、自立ではないですが、幼い頃からの環境がそういう性格を作ったのかもしれない ですね。しつけじゃないのですが、早くから自分でものを考えることが身に付いたんだと思います。
高校時代
- 工藤さんが高校進学を考える時は、将来を考え、名古屋電気高等学校(名電)を選んだのですか?
工藤選手: 名電を選んだのはただ単に、名電の監督が(僕が言ったわけではないですが)「僕の事を県内 の中学で三本の指に入るピッチャーだ。」と聞き、一度うちの練習を見に来ないかと誘ってくれたので、練習を見に行き、決めました。
それに僕は親から特待生でなかったら中学卒業後は働くように言われていました。お前はお金のかからない県立高校ならなんとかしてやれるけ ど、それ以外だったら働いてくれと言われていました。まぁ野球しかなかったのもあるし、特待生で授業料免除、全寮制といわれていたので入りましたね。
- では野球を通して何かを成し遂げたいという考えは?
工藤選手: なかったですね。入った頃の一年生なんて僕らの時は虫けら同然の時代でした。(笑)試合で投げられるようになって初めてそういった将来が見えるようになり ました。それまでは全然。どう就職するかだけです。大学は全く考えていなかった。社会人野球にどうやったら入れるか。ある程度成績を残して評価されなくて はいけないとは思っていました。
- なるほど、ぼんやりとは描いていたのですね。
工藤選手: えぇ。そうなればいいな、くらいですが。まぁそれなりに各大会である程度はやれましたけど、だからといって自分が評価されているとは思っていませんでし た。
三年生の夏に、県大会で優勝して、甲子園に出て、これでどうにか就職できるかもしれないなと思ったくらいです。(笑)プロは考えていなかっ たですね。
- 高校時代、工藤さんの練習を「考える」という意味で、高校時代の練習はやらされているものでしたか?それとも(自主的に)考えるものでしたか?
工藤選手: やらされている練習です。自分たちが最上級生になって初めて自分がやる練習がありましたけど。ほぼやらされる練習ですね。「学校から寮まで走れ」と監督にいわれて毎日走ったりしていましたね。
- その当時は練習に対する目的というのは?
工藤選手: 全然ないですね。ただやらされていました。二年生の夏の終わりからですね。その時に本当の自分の練習ができましたね。
当時はコントロールが悪く、(二年生の)最後の夏もフォアボールとかデッドボールとかで大敗しました。
そういう教訓もあり、コントロールを良くする為に、10メートルの距離からキャッチャーの構えるミットまで10球連続投げられるようになっ たらもう2歩下がって、また10球投げられるようになったら、という練習を延々とやっていました。
- 10メートルというと18.4メートルの約半分からということですね。
工藤選手: えぇ。そのぐらいの距離から10球投げられるようになったら2歩下がって。
- それは工藤さんが考えられた練習方法なのですか?
工藤選手: 練習に来ていた、九州で女子のソフトボールをみているというおじいちゃんが、「ボールはそんな遠くから投げても入らん。前ぇ行け。そこから投げろ。」と言 われてはじめましたね。
秋から冬にかけてそういった練習をして、春になった時には、18メートルのピッチャーの距離からストレートでもカーブでも構えたところに 10球投げられるようになりました。そういう教えられて良いなと思った練習は、自分たちが三年生になってからの練習ですね。それまではやらされている練習 でした。
- ということは最後の一年間は、今までしてきた、考えて練習する習慣が活きていますね。
工藤選手: そうですね。僕はほぼ野球を教えてもらった経験がありません。高校時代に1つ、2つぐらいです。
中学生の時は、ピッチャーというものは足を上げて、下ろしながら花が開くように手がびゅうっと広がっていかなければいけない、という事を習いました。
高校生の時は、目の前に椅子があったとして、その椅子にお尻からぐ~っと座る感覚で投げる、という事を習いました。それぐらいですね。
- おそらくその間にいろいろなことが情報として入ってくると思うのですけれども…
工藤選手: 僕らの時は、情報はないっすよ!(笑)一年生の時なんかは必死に生きていくので精いっぱいで。情報をもらってとか、今みたいにパソコンやインターネットが あってという時代じゃないですしね。携帯電話ですら誰も持ってなくて、公衆電話の時代ですからね。
一生懸命やる事
- なるほど。当然現在とは環境が違いますね。ここ数年、高校球児の人数は増えています。部活動の継続率も上がっていると聞きます。
(参考資料: 一年生がその後進級して三年生になった時の残留の割合である継続率 平成元年 74.5% 平成10年 77.9% 平成20年 82.2%)
工藤選手: やめる事自体は大きな事ではないけれど、その後の人生がどう変わってしまうかを考えると大きいものかもしれません。
野球はしょせん野球であり、スポーツのひとつです。
極める事も大切ですが、すべての人が極められるものでもありません。
人生の中で、スポーツをやってきたことをどう活かしていくか、という事が大事で、そこに「継続する力」や、「自分が嫌な事に対しても立ち向 かっていく」事が養われると思います。
世の中には理不尽なこともある、しかしそこから逃げ出していいのか、と。そこが問題だと思います。
大人と子どもの狭間の中で、早く大人になりたい半面、大人から見ればまだ子どもという時期の中で、本人の意思が示せるか示せないかにかかっ てくると思いますよ。
僕も今息子と娘がいますが、「何かをやるなら自分で真剣に、一生懸命にやりなさい。一生懸命やって駄目だったらいいよ。違うことやって構わ ないから。ただ一生懸命やらずに、あれが嫌だから辞める、これが嫌だから辞めるのではいけない。それが上手になったり自分で好きになったりすることである ならば、いくらでも協力してあげる。でも一生懸命やらないのだったら協力しないよ。」と(言っています)。
- 一生懸命やった上で判断するということですね。
工藤選手: えぇ、自分の意思を先に示さないことには、その後がないので。やりたいのかやりたくないのか。わからないけど何となくやっている事が成功するはずがないで すよね。それがその先の自分に活きるとも思いません。
- むしろその時間が勿体ないですよね。
工藤選手: だから、その時間を充実させたいのなら、自分の意思を示しなさいと。その上でどうしたらいいかわからない場合はアドバイスもするし、その先にどういう方向 で行きたいかを考える場合は、世の中はこうなっているよと教えるし、トレーニングを教えてほしい場合は、今はこんなトレーニングがあるよと教えます。
工藤選手の情報の消化方法
- プロに入ると、いろいろな情報が入ってくると思いますが、いったんそれらの情報をどう自分で消化していますか?
工藤選手: まずはやってみて、ダメだったら、無理に取り入れない事です。
- まず自分でやってみると。
工藤選手: やらない限り、分からないですよね。
例えば、プロのピッチングコーチがこう言っている。それならまずは試してみて、上手くいかなかったら「他に方法はありませんか?」と聞くべ きです。
僕にはその人のそのやり方が合わないかもしれませんから。
また、トレーニングや大学の研究など様々な情報も野球に関連付けて考えています。
体の使い方を知る
工藤選手: 僕は、投げる動作が運動力学でどう体が使われるのかを知る事が重要だと思います。
どのくらい関節や骨や筋肉の生まれ持った強さがあるのか、どのくらいの瞬発系の割合があるのかという事を計算するのは難しいですが、関節が しっかりしているから筋肉で動かした時により大きな力になる、という仕組みを知れば、選手が求めるものにも応えやすいのだと(思います)。
壊れないようにもできると思うし、壊れた時にはどういう動きをしたから壊れたのかが分かります。
- 人間本来の仕組みを理解するということですね。
工藤選手: そうです。例えば、本来、野球をしたら人間の体は壊れるようになっています。人間の体は肩から上で物を投げるようにはなっていないんですよ。
何故チンパンジーの握力が100~150㎏なくてはならないのは、木の上で生活しないと生きていけないからなのですが、だからといって腕が 太いわけじゃないですよね。
どこが強いかというと肩です。人間は(猿から)進化して人間になったといいますが、進化したのは脳から上だけですよ。
- むしろその下は退化ですよね。
工藤選手: 肩甲骨って、解剖してみるとわかるけど、ぺらぺらなんですよ。唯一太いところが肩甲棘という部分です。肩甲棘上筋・肩甲棘下筋、この棘に対して上腕骨頭が まっすぐはまっているのが ゼロポジション というフリーの状態です。そこで回旋運動が起きても壊れません。
長い間続けていると、だんだん壊れていったりします。鍵盤にしても関節唇にしても傷んだり壊れたり。上腕骨頭は小さい頃に無理をすると、欠 けたり、亀裂骨折とか腱の部分からはがれる剥離骨折が起きるのです。
では何故、剥離骨折が起きるのかというと、今の子どもたちは、体は大きいですがそれに骨の成長・強さが伴っていない。骨密度が少ない。だから体に無理がか かる同じ動作を続けていると、投げ方が悪いというのもありますが、そこに負担がかかり、腱や筋肉ではなく骨が剥離してしまうんです。
普通だったら腱や筋肉が切れますが、くっついている骨の部分が弱いからそこが剥離するんです。剥がれたり、欠けたりするんです。だから僕は 野球教室では無理のでない練習方法を子どもたちに教えているんです。
- その為にも自分の体を理解するために勉強する事は重要ですね。
体の使い方を知る02
- 工藤さんが体の本質を理解しようと思ったきっかけはなん ですか?
工藤選手: きっかけは筑波大学で筋力測定をして、体について少しずついろいろと勉強し始めた時です ね。また結婚して妻が栄養関連に従事していたこともあって、僕はトレーニングや人体について知りたいと思うようになっていきました。そして、NHKの人体 特集をみたりとか人類の誕生特集をみたり、そういうディスカバリーチャンネルを見たりして勉強しましたね。
僕の場合、言葉で書いてあるだけだと理解しづらいのですが、映像とそれに対する言葉や解説があると理解しやすいんですよ。普段から打者の映 像を見ながらスコアラーの情報を聞いており、その方が頭に入りやすいので、そうやって勉強しました。また統計をとって、小さいデータを沢山集める事で仮説 をたてていくことが好きですね。トレーニングの本もたくさん読みましたけどね。
ただ、何が大事か、どこが大事かは言えますが、どのトレーニングが良いかは決められません。股関節、体幹、インナーだとか、どこを鍛えれば いいかは言えます。だけど、どう鍛えるかはその本人によりけりです。
- その本人に適したものをやらなければいけないのですね。
工藤選手: いや、適したものが何かを見つける為にトレーニングをするのです。これはいまいちだとか、 これは一つだと使えないけど、あれを組み合わせれば使えるとかですね。試行錯誤しながらみつけていく感覚です。
他のスポーツから考える
- 工藤さんは他のスポーツも見て、こういう動きは野球にも生きるのだと考えたりするのですか?
工藤選手: すべてのスポーツに言えますが、見た目がスムーズでないものはどこかに力が入っていると思います。以外と傷害を起こしますよ。ただ、スムーズに動いていて も、ぶつかるようなスポーツはすべてケガに繋がりやすいです。だからコンタクトスポーツは本来選手寿命が長くない。寿命が長いスポーツは、コンタクトが少 ないスポーツです。だからコンタクトが少ないスポーツに限って言えば、滑らかにスムーズに動いている選手は傷害が少ないものです。
- 逆にぎこちないフォームで動いているのをみると、工藤さんにとっては上達のヒントになりえるということですか?
工藤選手: ありえますよ。どこがどう動いてぎこちないのかとか考えます。
工藤選手の考える指導論
工藤選手: でも、それを本人にいって直させてはいけないんです。それはその人がいままでの環境の中でそうしてきたのであって、その環境を覆すようなことを言ってはいけませ ん。悩みます。だから、どういう選択肢を持って人を見るかということが大事です。
- 選択肢といいますと?
工藤選手: この選手はどういう環境で、どういう生活を送ってきて、どういう人に野球を教えてもらって、どういう変化球をどの時期に覚えて、といったことを本人と話し た中で、その中で一番本人が伸びていた時期の練習が一番その人にあった練習です。それを見つけます。
- その人の表面を見るのではなく、その奥、時間軸でいうと過去までみているということですね。
工藤選手: その中でアドバイスを考えるんです。すべてパッと見ただけでアドバイスをしているわけではありません。今の子どもたちは周りにたくさんの情報がある分、な ぜそういう風に思って、なぜそういう風に言っているのかを言わないと、納得しません。
何故、ランニングは必要なのか?
工藤選手: 例えば、なぜランニングが必要なのか?なぜ量を走らなくてはならないのか?
- ではなぜランニングが必要なのでしょう??
工藤選手: すべての基本はランニングから、と言われています。スポーツというものは走ることに始まって走ることに終わる。バランス、体の使い方です。
例えばジョギングをするとします。何故するのか?
心肺機能を高める事もあるし、回復能力を高める事もある。体をあっためて最後のストレッチにもっていく為のジョギングの役割もあります。それらの(ランニ ング)効果を知り、使い分けなければいけない。
他に、なぜPBのようなトレーニングが必要かというと、野球を長いシーズンやろうとすれば絶対に筋持久力が必要になってくるからです。筋持 久力が無くなり、それが最終的に疲労につながると、集中力の低下へとつながっていきます。そこでバットスイングを速くしなければならない、ピッチングとし て速くなくてはいけないとなると筋肉がついていかない。そうすると当然怪我にもつながる可能性が高くなっていきます。で、早い動きが必要だから瞬発系も必要になってくる。
ピッチャーは一日何球投げると思いますか?120球で完投したとして。
- 250球くらいですか?
工藤選手: 違います。300球は超えるんですよ。試合の合間、キャッチボール、ブルペンでの投球すべてを含めれば。瞬発力だけで200球はもたないのです。だから筋持久力が必要です。だからいろいろな状況のなかで、それらに応じて僕らは対応していかなく てはなりません。手間暇かかり時間もかかります。ただ一試合良ければいいものではありません。144試合乗り切る力をオフシーズンに鍛えているんです。
プロとして長くやる為には
工藤選手: 僕だけがそうではないけど、他のプロ野球選手も瞬発力と持久力を念頭にいれて(トレーニングを)していますし、考えてしないと長くはできません。プロ野球 で1,2年成功するだけなら、いいチャンスでポンと打てばいいのだけど、長くは続かない。なぜ続かないかというと、長い間同じピッチャーと戦うからです。
- というと相手のことはもう十分知っているわけですね。
工藤選手: 最初抑えていたピッチングも、じきに当たるようになります。次にはヒットになります。そして高く上がればホームランを打たれてしまいますよ。だから毎年毎 年新しいものを身につけていかないと。成績を残した上で長く続けるのは難しいんじゃないかと思いますよ。
- この世界で10年20年やっている選手というのは、考えるのが好きな選手ですか?
工藤選手: 考えるのが好きじゃない選手もいますけど…。
- 工藤さんは考えるのが好きですよね。
工藤選手: 僕が考えるのが好きなのは、もっといい方法を探しているからです。もっと楽に力を入れずに投げることができないか、もっとタイミングのとりづらい球を投げ る方法がないか、もっとコントロールをよくする方法があるんじゃないか、とかを考えています。
これから球を150km、155kmにしようなんて思っていません。それよりももっとバッターにとっていやらしいピッチャーになるためにはどうしたらよい かを考えています。
- そのアイディアが思い浮かぶ瞬間はどのような時ですか?
工藤選手: 寝ている時間か,目をつぶっている時間のどっちかです。話している時はあまりいいアイディアは浮かばないんですよ。野球の事しか考えていないので、その中 で、「あ、明日こういうのをやってみよ。」とか「あいつ今日あんな練習してたな。なんであの練習をしていたんだろ?あぁこういうこと考えて試してたのか な。ちょっとやってみよ。」なんだろなんだろとイメージを膨らませていると閃くんです。
そして、まず考えついたら行動してみる。試してみる。行動してみて初めてこれは違うとかがわかる。1日やってわからなければ2日やってみ ればいい。使えると思ったら続けてみる。1週間、2週間やってみてダメだったものはダメなんですよ。そこをいつ切り替えるのかは、僕はその選手の調整能力 じゃないかと。
試合中の流れを切る為には
- 試合中の悪い流れを断ち切るために工藤さんがマウンドで心掛けていることは何ですか?
工藤選手: 今、自分がどういう状態で投げているか、相手が今どういう精神状態で向かっているかを知る事ですね。
- つまり客観視するという事ですね。
工藤選手: もう一人の自分を作って遠くから自分を観る事ですね。ただ、高校生にとっての流れを断ち切る事とプロ野球選手とでは、申し訳ないけど、レベルが違う。高校 生はどちらかというと精神的なものだけど、僕らは情報です。バッターの情報、チームの情報、常に情報を解析してバッターに投げています。プロは、全部違う 攻め方があるんですよ。それを全部覚えなくてはならない、だから情報戦です。
- なるほど。では工藤さんが高校球児にアドバイスするとしたらどのようなことですか?
工藤選手: 「練習した苦しみを思い出せ。」と言いますね。僕はベイスターズの選手に対して、自主トレ・キャンプ・オープン戦、一番苦しい思いをしたチームが優勝す る、と言っています。
高校生にも同じです。「お前らは誰にも負けないくらい練習したか」「誰にも負けないぐらい頭を使い野球を勉強し、野球を考えながら生活してきたか」、それ を全員ができたなら、日本一のチームになれると思います。
- それが精神的なよりどころになるんですね。
工藤選手: そうですね。練習は嘘つきませんから。練習しない奴はどんなに頑張ったって無理だって。僕は日本一じゃないにしろ、間違いなくそれに近い練習は高校の時に しました。
自分を高めよう
- 今の高校生は他の高校がどんな練習をしているかを気にしているんですよ。
工藤選手: それは周りのチームを見て、自分のチームを見返すこともできるのかもしれないけど、周りが普通のことをやっていて自分たちが特別なことをやっていると思う のは違いますね。時には周りを気にせずにやることも必要です。
当然情報が多いゆえに、そういう気持ちに陥ることはありますが、僕達の頃は情報がなかったから自分たちでやるしかなかった。「自分たちの野 球やろうぜ。それで負けたら仕方ない。」って割り切っていましたね。情報がありすぎて不安だったら、周りを気にするのではなく、自分の練習をしなさい。
僕が大事だと思うのは、何があっても「自分」だと思います。「自分」をなくして他人をみて人がやっているから自分もやろうっていうのは、他 人に依存しているだけでしょ。他人に依存して自分は作れないでしょ。確かに個を作るのに周りに助けてもらう部分は必要となるかもしれないけれど、個を強く する、磨こうとするのに周りしか見ていなかったら個は強くならないと思いますね。
- 高校野球に関しても、個に対する意識が必要かもしれませんね。
工藤選手: ボールを遠くに飛ばすこと、遠くに投げること、早く走ること、この3つができればとりあえずはいい選手でしょ?それをなんで周りを見ようとするのか、気に なるのかがわからない。
- まずは自分ということですね。
工藤選手: と思うけどね。自分のことを知らないで、相手のことを知ろうとするなんてできないよ!(笑)絶対におかしいよね。自分を理解して自分の信じるやり方を一心 不乱にやる。周りじゃなくて、自分を高めてほしいですね。
高校生へメッセージ
- 高校生へのメッセージを。
工藤選手: もっと良い方法はないかと考えた時に楽な方に行っちゃ駄目。地味な方にいかなきゃ。苦しいけど地味な方へ、地味な方へいかなきゃ駄目ですね。
「走る本数が少なくて筋肉付く方法ありませんか?」
「ねぇよ。」
「長いジョギングをせずに回復能力を高める方法はありますか?」
「ない。」
高校生の時は腹筋を何千回もやったり、走る事の意味がわかんなくても走りました。そうやって自分自身が苦しみを乗り越えていかない限り、体 の強さも精神的な強さも備わって来ないと思います。その後の野球人生を考えたら今頑張っておくべきです。今を頑張る事で繋がっていきます。未来がみえなく てもいい。君達にはまだ未来がみえないと思います。僕だって(当時は)みえませんでした。未来がみえなくても、今を必死に頑張って下さい。
【高校野球情報.comより転載】
【用語説明】
※「ゼロポジション」…「肩甲骨の棘突起と上腕骨の長軸が一致した状態」と定義され、その角度は肩のラインから見て約60度であると言われ ています。60度になった時に、肩甲骨のでっぱりと腕のラインが一致するということです。
この体勢は元々インドの整形外科医が1961年に考え出したもので、「肩周辺の筋収縮力が均等になり、自発的な筋力発揮では回旋運動が不可能になるポジ ション」です。
回旋動作が不可能になるとはつまり、この体勢にある時肩甲骨が周りの筋肉にバランスよく支えられ、位置がロックされます。そのためこの位置で腕を旋回させ ようとしても肩甲骨が支えるため、筋肉はしなりを受けずに済む、つまりもっとも肩の筋肉がしならずにすむポジションであると言われます。
※関節唇…股関節内の柔らかい組織 関節窩の周りの繊維軟骨性の部
