正しい立ち方、歩き方/池田 将典
正しい身体の使い方の基本は、「立つ」「歩く」にあります。
その基本ができていないのに、いろいろなテクニックを磨いてもダメ。
正しい立ち方、歩き方とは、どのようなものか。
どうすればそれを身につけることができるのか。
いっしょに考えていきましょう。
プロフィール

池田 将典
トレーナー
1965年4月7日生まれ/兵庫県出身。大阪体育大学体育学部卒~オレゴン州立大学大学院スポーツ医学卒。
(有)ボディファクトリー代表。
プロ野球選手、Jリーガー、オリンピック選手をはじめ多くのアスリート、チームのコンディショニング、リコンディショニングを担当し “SAVE THE ATHLETE”をスローガンに東京、神奈川でスポーツ治療院を展開している。
ボディファクトリーのホームページ http://www.bodyfa.com/
1.「立つ」「歩く」の重要性
●「立つ」「歩く」がすべての基本
スポーツは、意識して自分の身体を動かすものです。自分のコントロール下でいかにうまく身体を使えるか。そこがアスリートとしての大きなポイントになります。
その動きの基本となるのは「立つ」「歩く」といった無意識の動きです。
「歩く」という動作をするとき、歩き方を意識している人はほとんどいないと思います。みんな無意識で歩いています。例えば、タイガー・ウッズ選手やイチロー選手は歩き方が素晴らしい。ですが、彼らも意識して歩いているわけではありません。意識せずにうまく身体を使えているのです。
この「立つ」「歩く」といった基本動作が正しくできていないと、スポーツは上達しません。「立つ」「歩く」が正しくできて初めて、「小走りする」→「走る」→「止まる」→「ターンをする」というように、正しく身体を動かすことができるようになります。
●小手先のテクニックより、基本が大切
「立つ」「歩く」がすべての基本です。基本がないまま、いくら細かいテクニックを習得しても、いずれ壁にぶち当たるときが来るはずです。
今の子供たちの歩き方を見ると、つま先が開いて、膝が内へ入っている子が非常に多く見られます。これは自分の向かっていく方向に対して、パワーをロスしています。また、腕を振らずに足だけで身体を動かそうとしている子も多いです。
そんな子供たちでも、サッカースクールでリフティングを教わり、それがうまくできる子はいます。ですがこれは、コンピュータに例えると間違ったプログラムに正しいアウトプットを求めるようなもの。できているように見えて、実際はできていないのです。小手先のテクニックばかりを重視せず、「立つ」「歩く」という基本を重視しましょう。
選手やチームの立っている姿や歩いている姿を見れば、その力量がわかります。基本ができている選手やチームは、やはり強い。例えば先ほど挙げたタイガー・ウッズ選手やイチロー選手はもちろん、サッカーの日本代表の選手たちも歩く姿がとてもきれいです。
●なぜ正しく歩ける人が少ないのか
残念ながら、タイガー・ウッズ選手やイチロー選手のように意識せずに正しく歩けている人は、少ないのが現状です。
なぜならば、本来正しい歩き方が身につくはずの12歳くらいまでの間に、それが身についていないからです。
今の子供たちは、手や足といった身体の使い方が正しく身についていないので、正しく歩くことができなくなっているのです。
それにはいろいろな原因があります。いくつか挙げてみましょう。
①外で遊ばなくなった
大きな要因の1つは、遊ばなくなったことです。「遊び」といっても、それはゲームをするといった家の中の遊びではありません。外での遊びです。
例えば、木登りです。最近の子供たちは、木に登ることがありません。昔は木に登ることで自然に学んでいた手や足といった身体の動きが、学べていないのです。
また、年長者といっしょに遊ばなくなったことも要因の一つです。
小学校低学年くらいの子供は、自分のお兄ちゃんや近所の上級生といっしょに遊びながら年長者の動きを真似ることで、自分の身体の動かし方を高めることができます。ですが、最近は環境が変わり、そういうことがなくなってしまいました。
②子供の育て方が変わった
子供の育て方が変わったのも大きな要因です。
以前は、親が子供をだっこしたりおんぶしたりしていました。子供はだっこやおんぶをされたときに、親につかまることで自然に股関節の動きなどを身につけていたのです。でも、今はベビーカーに乗せてしまうため、それがなくなっています。
赤ちゃんのハイハイもそうです。ハイハイをするときに手や足を使うことで、その動きを自然に覚えていました。それが今はハイハイをさせる時間を短くして、すぐに立たせようとしてしまっています。そのため手足の使い方を覚える時間が少なくなっているのです。
親が子供に危ないことをさせなくなったのも要因でしょう。
高いところから飛び降りたりする遊びを「危ない」といってさせなくなっています。ですが、高いところから飛び降りると、痛くないように膝を柔らかくしてクッションにする動きが自然とできるようになります。この動きは、野球のバントやバスケットボールのパスを受けるときの動きと同じです。直接にそのスポーツの動きを習得しなくても、身体が覚えたことが他の動きに活用されるのです。でも、その経験がないと、「クッションのように身体を使って」と説明しても、どうしていいかわからない。そんな子供が増えています。
「石に躓いて転ぶ」といった危ない経験も大事です。今は、親が「石があるよ、危ないよ」と手を差し伸べてしまいます。ですが、躓いて覚えることもあります。この経験をすることで、「躓いたら足を出して倒れないようにする」とか「足首を捻ったら、靭帯が伸びないように瞬間的に足首を元の位置に戻す」といったバイオフィードバック能力を高めることができるのです。
こういったとっさの動きは、誰かに習うわけではありません。ボールが飛んできて当たりそうになったら、目をつぶる。あるいは避ける。でも、今の子供の中には目を開けたままボールにぶつかる子が増えています。「ボールを避ける」といったとっさの動きは、ボクシングの亀田家のようにピンポン球を投げてそれを避ける練習をしないと身につかない、というわけではありません。本来は、遊びの中で自然に覚えるものなのです。
このように、人間は正しい身体の使い方を誰に教わるでもなく、日常生活や遊びの中で自然に身につけていました。
ところが現代社会での生活では、その機会を失ってしまっています。そのため、正しい身体の使い方が身についておらず、正しい歩き方もできなくなってしまったのです。
2.正しい立ち方、歩き方
●正しい立ち方、歩き方を身につけるには
正しく身体が使えるかどうかは、生まれ持った能力の差ではなく、どんなことを体験してきたかによって差が出てしまいます。特にゴールデンエイジ(9歳~12歳)の間に何をしているか、それが大事なのです。
ですが、ゴールデンエイジに外で遊ばなかったから、もう正しい歩き方を身につけられない……というわけではありません。
自然と身につけていれば楽だったでしょう。ですが身につかなかった分、意識して身につけるようにすればよいのです。
「立つ」「歩く」といった本来は無意識の動作に、意識を入れる。つまり「正しい立ち方を意識して立つ」、「正しい歩き方を意識しながら歩く」ということです。そしてそれを無意識にできるようになるまでやり続けるのです。そうすれば少しずつ改善できます。
●正しい立ち方、歩き方を身につける前に
正しい立ち方や歩き方を身につける前に、しておいた方がよいことがあります。
それは、「脚長差」がある場合は、早めに直すということです。脚の長さは左右で2~3cm違う場合もあります。いくら正しく歩いても、それでは結果として正しく歩けません。
脚長差を無くすには、骨盤体操や骨盤にチューブを巻いて動かすなどの方法があります。
ここでは詳しくは触れませんが、脚長差をなくすことが正しく歩くための第一歩です。
それでは、これから「正しい立ち方」と「正しい歩き方」を説明します。
まずは、正しく立つことから始めましょう。
●正しい立ち方
正しく立つためには、正しい重心で自分の身体を支持しなければなりません。
正しい重心とは、自分の体重を足の裏の3点で支持している状態のことをいいます。
3点とは、「拇指球」(親指の付け根)、「小指球」(小指の付け根)、「かかと」です。
そして、立ったときに自分の身体を横から見て、くるぶし―膝―骨盤―肩―耳が一直線になっているのが正しい立ち方です。(写真1、2参照)
この一直線になった線を、重心線といいます。

この立ち方をチェックするには、壁にかかとをつけ、背中と壁の間に手が1本入るくらいで立ってみるとよいでしょう。
正しく立っているつもりでも、実際は写真3のようにあごが前に出てしまっていたり、写真4のように後ろに反ってしまったりしていることが多いので、注意しましょう。
簡単なようですが、実は難しいはずです。今までの生活習慣の積み重ねで自然に重心が偏ってしまっているかもしれません。例えば家庭でTVを見るとき、TVの左側に座って見ている人と右側に座って見ている人では、身体のバランスが違っています。ぜひ自分の立ち方をチェックしてみてください。
●正しい歩き方
正しく立つことができたら、次は正しく歩くことに進みましょう。
①重心
正しく歩くには、まず正しく立った状態の重心をそのまま維持することが大切です。
耳から垂直に降ろした重心線が、歩幅の真ん中にあるように保ちます。(写真5参照)
写真6のように前傾して猫背にならないように注意しましょう。

そして、骨盤を安定させてその位置を動かさないようにしたまま、歩きます。
おへそのあたりから紐がでていて、それを前から真っ直ぐに引っ張られているイメージを持つと良いでしょう。(写真7参照)
モノを移動させる感覚で、最短距離で真っ直ぐ動かします。
左右にジグザグしたり上下に揺れたりするのは無駄な動きですので、しないようにしましょう。
②腕の動き
まず、「腕は肩甲骨から生えている」ことを意識してください。
腕は、しっかり振りましょう。(写真8参照)
肩を前に出したり後ろに引いたりしないで、肩甲骨から腕を振ります。
肩関節を動かすのではなく、肩甲骨を動かします。
腕は前に出すことよりも、後ろに引くことの方が大事ですので、前に出す幅と同じくらい後ろに引きましょう。そうすることで胸郭が開き、酸素をより効率よく取り入れることができます。
③足の動き
まず、「足は股関節から生えている」ことを意識してください。
腸腰筋を使って股関節から足を動かします。足をしっかりと上げ、かかとから地面に着けて、最後に拇指球を離します。(写真9、10参照)
つま先と膝は、自分の向かっていく方向に対して真っ直ぐに出しましょう。(写真7参照)

3.最後に
このような正しい立ち方、正しい歩き方を意識して続け、それが無意識でできるようになるには、個人差もありますが3ヶ月ほどかかると思います。少しずつ身体の中に正しい動きを埋め込んでいく根気が必要です。
永年の生活の中で間違った動きの癖がついているので、簡単ではありません。例えるなら、右利きの人が急に左利きにするようなものかもしれません。
身につけるには、あなたの意志の強さも関わってきます。家族や周りの人、指導者といった人たちの協力も重要となるでしょう。
ですが既に述べたように、基本を避けて応用にだけ力を入れてもダメなのです。覚悟を決めて、今日から取り組むことをお勧めします。
<取材/構成=スポーツライター 佐伯 要 ・ 写真=小川文吾、高畑好秀>
