言葉の力 2012年2月
遠征時の楽しみ
2月も後半に入り、レギュラーシーズンも残り3週間となりました。この原稿を書いている時はニューメキシコに滞在しており
ここでの試合の後に、ルイジアナにむかい、もう一試合行ってからハワイに戻ります
遠征時の楽しみの一つと言えば、各地で頑張る日本人のアスレチックトレーナーにあえる、ということ
これからアスレチックトレーナーになろうとする学生の時もあれば、すでに有資格者として働いている人の時もあります。こういった時間は自分にとってもとても貴重なものとなります
自分は現在ハワイという土地で過ごしているので、多くの日本語に触れていますが、ハワイに来る以前は全く日本人がいない地域で過ごしていた事もあるのでその孤独感というものはわかっているつもりです
ですから母国語で話せるという安心感は表現しがたいものがありますし、こういった時間が出会った学生や仲間にとって実りあるものであれば、と思っています。
そして、あまり日本人がいない地域で過ごされている方々に会うと感じるのはその人達の「強さ」。母国語を話す相手もいない環境で耐えられずに場所をかえたり、帰国を決意するという人たちも多い中で、その環境にめげずに前に進んでいく。そういった試練を乗り越えた人たちには確固とした「芯」があります。この揺らぐ事のない芯を得たということは後々も強いだろうな、と感じています
女子スポーツを見るということ
そういった出逢いの中で
「どうして女子スポーツを見続けられるんですか?」
「女子スポーツで気をつけている事はなんですか?」
と聞かれることがあります
これは僕が男性であるにもかかわらず異性のチームを担当しているから、ということがあるとおもうのですが、やはり男性の視点からすると男子チームを担当する方が、同性ですからある程度同じ考えや感情を共感できるので選手の扱いが楽、という事があります。中には「女子スポーツは自分には見られない」という男性アスレチックトレーナーの仲間も多くいます
自分自身、男子スポーツでの経験ももちろんありますが、やはりアプローチの仕方は大分違うし、女子スポーツを主に担当するようになってから大分かわって来たな、柔らかくなったなと自分でも思います。とにかく話に耳を傾けるようになりました。
これはもしかしたら年齢を重ねたからかもしれません
積み重ねてきた経験ということも勿論あると思います
時に「男子スポーツの方が楽だな」と思う事も正直な所あります
しかし女子スポーツだからこそ経験できる事や喜び、自分の幅を広げる気付きも多いにあります
アスレチックトレーナーの仕事
僕たちアスレチックトレーナーの仕事は、怪我の予防、そして怪我が起こった時の早急な対応、および処置、そして競技復帰の為のリハビリということがあります
異性を担当するわけですから、その関わりにおいていかなる「誤解」が生じてしまってはなりません。そこには細心の注意を払います。
肩周りや腰回りの怪我が生じ、多くの人が行き交うトレーニングルームではおおっぴらに怪我の評価が出来ない時には個室につれていきますが、その際には女性のアスレチックトレーナーや、学生を連れていきます
多くの場合、身体的な状態や怪我だけではなく、精神的な重荷を背負っている子の相談にのることもあります
アスレチックトレーナーという仕事は、良く言えば非常に自由な役割があり、悪く言えば何者でもありません。コーチではないし、選手でもない、先生でもないし、友達でもない。でも誰よりも多くの時間をともに過ごす存在。それがアスレチックトレーナー
決まった役柄がないという事は、上記のいずれの役割にも必要に応じてなれる、ということでもあります。勿論それはプロフェッショナリズムにもとづいて、の役割なので必要以上に自分の能力以上の事をしようとはしませんし、友達のように振る舞ったりする事はありません。
決まった役割がないこと、これが良い方向に作用する事もあれば、思ったように進まない事も時にはあります。それでも選手達が気軽に話をしてくれる存在でいられる事を心がけています。
耳を傾ける
男子チームと女子チームを担当する時により気をつけている事
それは「話に耳を傾ける」ということ
チームや選手のレベルにもよりますが、高いレベルの男子チームをみていた時には「こんな事もできない/言い訳をするのならこのレベルでは出来ないから帰りなさい」と煽るような事もしましたし、選手と競争するような形でリハビリをおこない、より良い結果にたどり着いた事も多くありました。お互いにぶつかり合う事で、本音をさらけ出し、昇っていくという作業です。
しかしこれを全く同じように女子選手とやると思うようにうまくいきません
まずは話をじっくり聞く
そして怪我の場合は、その怪我の症状についてじっくりと、時には図や模型をもってきて、説明をする
そして、こちらの思う事を伝える
その後、質問や疑問、不安に思っている事などはないかを聞く
これを最初の段階で時間をとって、きっちりと行います
もちろん男子選手相手でも行うのですが、女子選手の場合には特に聞く作業に時間を設け、思っている事を全て出させます
怪我をすると選手は不安に襲われます
また同じようにプレーできるのだろうか
これからどうなるのか
この痛みはなくなるのか
そういった不安を少しでも取り除いてあげること
それがスタート地点になるのかな、とおもっています
目を配る
トレーニングルームと呼ばれる治療やリハビリを行う場所では、多くの選手が行き交うので、色々な話が耳に入ってきますし、毎日の練習やワークアウトにおいても我々は絶えず選手を見ています
どこか悪い所があるから訪れる患者さんを見る病院やクリニックと大きく違う所です
こういった事環境に身を置けているからこそ、日頃から接している様子を元に「あれ、いつもと何か様子が違うな」「どうしたのかな」という些細な違いを早めにキャッチして、細かな声かけを行うようにしています。
思い過ごしの事もありますが、それでも「気にかけてくれている」という事で、ひとつの信頼を得るきっかけにもなります
実際に何かを抱えている事もあります
そういったケースは、誰かに話したいけれど誰に話してよいのかわからなかったから辛かった、という事がほとんどです
それはチームの事の時もあれば、自身のパフォーマンスについての時もありますし、学業や進路の悩み、家族や恋人との関係など、多岐に及びます。女性特有の身体的な問題(生理関連や妊娠)の事もあります
かなりデリケートな問題でもありますから、そういう話を選手が「この人になら話してもいいかも」と思ってもらえる存在でいなければなりません
おそらく、ここに至までの気配りや心遣いが男子と女子チームを見るにあたっての一番の違いになるのではないかな、と思っています
一流のセールスマンに
昔、とあるアメリカ人に「良いアスレチックトレーナーは良いセールスマンになれるよ。なぜなら君たちは、顧客がやりたくないと思っている事を薦めて、実行させ、結果を出す。そして顧客の方から『あなたの言う事を聞いてよかった』と言わしめるのだから」と言われた事があります
実際のセールスの世界はそんなに甘いものではないとは思いますが、なるほどな、と思える所もあります
言葉を羅列する事は誰にでもできます
言葉というものは、そこに心がこもっていて初めて意味をなし、そこに心がなければとても無力なものだと思うのです
逆に心がこもっていれば言葉は必要なく、それ以上のものを受け取ってもらえる事もあります
もしかしたら異性であるからという事以上に、外国人であるから選手も話しやすいのかなと思う事もあります
何がそうしているであれ、選手が窮地にいる時に自分が発する「大丈夫だよ」の一言が「この人が言っているのだからきっと大丈夫だ」と他の人のものよりも選手に安心を与え、「一緒に頑張って進んでいこう」という風にとってもらえる存在でいたいなと思って います
最近のハワイは、日中はいつも通り25度を超えていますが、朝晩は大分冷え込むようになり、だいたい15度前後という日が続いています。これで寒いと言っていたら怒られてしまいそうですが、寒さに慣れていないハワイの人たちは大騒ぎです。
まだまだ日本は寒いと聞きます
体調を崩されたりしないように御身体にお気をつけてお過ごし下さい
